2024年の野麦学舎祭が無事に終わりました。今年もこの場所で野麦イササを踊ることができました。峠から一番近い劇場、野麦学舎まで辿り着いてくだり、ありがとうございます。今年は地元からも、県外からも沢山来ていただき、とても賑やかでした。野麦学舎保存会の皆さんも本当にお疲れ様でした。
野麦はとにかく涼しいんです。今、東京に帰ってきてそれを実感しています。昼は日差しでそれなりに暑いけれど、風がとにかく気持ちいい。天然のクーラーが山から吹いてくるのです。今回は準備から、本番、バラシまで1週間ぐらい滞在しました。
ここに関わって3年。きっかけは、高山在住の映像作家の高島浩くん、そしてナツキさん。この学舎に一目ぼれして、取り壊し寸前のとこで野麦学舎保存会を立ち上げ、メンバーみのさんと浩くんがリーダーとなって動き始めてからです。
僕も同じ時期に飛騨民謡を調べていて、その頃にたまたま出会った本が「ひだびとの唄」でした。さらにこの本は自分の叔父が書いて出版していたことも分かり、その日から心に火が付きました。野麦イササをここで踊りたい。野麦イササは野麦の盆踊り唄ですが、過疎化で人も減り、もう50年近く踊られていなかったのです。
出会ってしまったら、もう止められない。自分の好きな音楽に民謡という新しい扉が開いたのです。野麦イササを、飛騨の民謡を自分らしく歌いたい。誰かひとりでも、唄を覚えたらこの地の芸能を残すことができる。
まずは唄を覚えるところから。野麦イササがこれまた難しい、独特のメロディーなんです。飛騨やんさのほうが確かにポップで覚えやすい。だからやんさは飛騨中で誰もが知ってる唄なんだなと。野麦はどちらかというと、地形的に街道を通じて信州からの文化がおおく入ってきている。隣の谷には秋神イササもあるし、長野側には奈川エササもある。野麦は高山市ではあるけれど、ここはここで、違った芸能があったんだなと思うとルーツを探る旅も始まってしまい、どんどん興味が湧いてきて、野麦の芸能を復活させようと決めたんです。
野麦イササを演奏できるメンバー。名古屋在住の金管楽器奏者・照喜名俊典、東京在住のベーシスト南勇介。野麦イササもうすぐレコーディングしたいのです。楽しみにしていてください。
今回の祭りの出演者もみな、面白かったな。初めての人形劇とクラウンの芝居。コルグラスは素晴らしかったです。世界の音楽、演劇、演芸が観れる場所が今後は野麦になるんじゃないかなと予感しました。サトコさんの唄が山に響いて、プルタタの音楽とダンスが毎年の風物詩のようになってきました。
野麦イササ踊りました。体験したことのない昔の風景を想像しながら、生声で踊りました。
今年は秋神イササ保存会の方も来てくださり輪踊りを披露してくださいました。ちょいなちょいなは踊りも唄も同じなので、一緒に踊れました。こんな事は50年前もやっていなかったんじゃないかな。
野麦イササ、民謡はほぼすべて口伝の芸能です。僕が叔父の記録したカセットテープから唄を覚えて、野麦の方から直接習った踊りをまた知らない誰かに伝えていくだけです。この集落でしか踊られていなかった芸能。神さまへの奉納と先祖供養の踊りですが、誰かに見せるというよりは自分たちの幸せと楽しみのためだけにあった芸能だと思います。日本中、世界中にあるこういう小さな芸能文化は人がいなくなれば失われていくものです。仕方ない面はあります。でも僕は野麦の人々のかつての営みから生まれたこの芸能に出会ってしまった。出会った僕らが、唄や踊りを残していけるなら、過去は人間らしさを伴って未来に繋がっていく気がするのです。一人でも唄えたら、残っていきますからね。
野麦の唄は 笹の葉イササ 一人唄えば 忘れじの
飛騨のイベント職人、石田さんと、山際さんが作ったお風呂。ドラム缶風呂は、山の水を蒔で沸かします。昼の木蔭の下でお風呂、最高でした。
満天の星、夜の野麦は15度。寒いぐらいです。昼の熱がアスファルトにたまって道路に寝っころぶと温かくて気持ちいいんです。願い事をするのを忘れるぐらい、何度も流れ星を見ました。
今後、どうしていこうかと、高嶋くんともよく話します。自分はどうしたいんだろうなって。僕がここに来る理由は、野麦学舎を保存したいためでもあるし、出会った民謡・野麦イササの口伝のためでもあるし、それが自分の表現にも繋がるからだと思います。とにかく覚えなければいけない民謡がまだ沢山あります。祭りごとで忙しくて、戦争なんかしてる暇がない世界がいいな。唄を覚えようよ。櫓を立てようよ。
野麦学舎は山奥の小さな校舎なので、キャパ的な限界もあります。たくさんの人に来てもらいたい気持ちはありますが、それよりも年間を通して(冬季は雪で難しいですが)様々な人がそれぞれのタイミングで野麦を訪れ関わってくれることが一番いいんだなと思います。夏はとにかく涼しいです。来年の作品作りはここでやろうかな。星空を眺めながら。
いつの日か野麦へ来てください。
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